桐蔭学園アカデミウムについて

桐蔭学園アカデミウムの理念

サヴィニーミュージアム

学園の21世紀への挑戦は、人類が歴史を意識して以来、2度目のミレニアムであるという歴史認識と、それに相応する教育の真の姿の追求という観点にはじまります。しかも、2001年は、学園の開学35年にもあたります。この記念すべき年に次のように考えます。

20世紀は財物としての豊かさの追求の世紀でありました。確かに大量生産の技術的システムを完成させ、大量消費を可能にし、人々はその充足をもっての幸せとするチャンスを得ました。

しかし、その追求は、領土や資源をめぐる戦争をもたらし、片や内部不経済の外部化による地球レベルの環境破壊や身近な自然生態系の不均衡をこの世紀に生み出しました。
その結果、「正義」の不均衡や「道徳」の喪失、未来に対する不安の拡大や夢を描くことを忘れる等の心の荒廃を人々にもたらし、他方、学問の世界も、過度な分化が真理の全体像を見失う弊害に陥り、知識と認識の乖離は、ますます著しいものとなりました。

サヴィニーミュージアム

技術と人間の心の不均衡、志や夢の復権等々、21世紀のグランド・デザインを描き出し、戦争や環境破壊といった20世紀の負の遺産を転換する手段は、ひたすら「英知の滋養」つまり教育の充実からはじまると考えます。

21世紀のあるべき理念を求め、その理念を携えつつ、志向する夢を実現させるべく、人々を財物のみならず、健康な肉体の維持・増進や、他の生物と共存・共生する幸せを「英知」により探求し、やがて「創知」に到る場として、この桐蔭学園アカデミウムを設立しました。即ち本施設は鵜川教育の句読点、そして新たな出発点となるものであります。

設計コンセプト 桐蔭学園アカデミウム設計にあたり

設計コンセプト 桐蔭学園アカデミウム設計にあたり

横浜地裁_images05

桐蔭学園、創立35周年記念事業として計画されたこの施設は横浜地方裁判所特号法廷(陪審法廷)の学園内への移築、復元、保存が建設の発端となっている。
この法廷は昭和5年震災復興事業で横浜市の日本大通りに創建された。日本に2例しか現存しない陪審法廷であり、第2次大戦後BC級戦犯を裁いた軍事法廷としても知られ、重要な歴史の現場としての保存が求められていた。法廷は実際に法学部の学生による模擬裁判などの授業にも使われるが、一般にも公開される。

学園キャンパスへの移築に際し、法廷のインテリア保存のため、周囲を回廊で囲み、一種の鞘堂建築として計画されている。
この法廷を中心にミュージアム、ライブラリー、ホール、インフォメーションなどの諸施設の複合建築として構想された。
ほとんどの施設は地下に積層されるように埋め込まれ大きく穿たれた地下の中庭を取り囲むように配置されている。これは地上にあらわれる建築ボリュームを極力押さえることによって周辺の風景と連続した環境を形成するためである。

地下に掘りさげられた外部空間、深い軒下で近隣の多摩丘陵までも見渡せる外部空間、見上げると切り取られた空が望める外部空間。ここでは建築によって構築された居心地の良い外部空間が立体的に形成されている。
インドのステップウエル(階段状に地中に掘込まれた井戸)のような地下に降りてゆく空間はあたかも地層を掘り進み、歴史を溯行していく試みに似ている。それぞれの機能を持った内部空間とは異なり、この外部空間は立体回遊性に富み、いたるところで人々の溜まりの空間が用意され、学生達の交流空間としての利用を促す。
この施設は、人々の交流の場であると同時に学園の精神的中心となり、学生生活の記憶のシンボルともなるように計画されている。

株式会社 栗生総合計画事務所
栗生 明