2021年4月、桐蔭学園中等教育学校は探究授業「15歳のグローバルチャレンジ」を始動しました。
生徒は3人~4人のグループで或る国の大使となり、学年末の模擬国連会議に向けて1年間かけて諸問題の解決に取り組みます。
世界大会7年連続出場を誇る模擬国連部での活動をベースとした日本初の試みで、グローバルな視座を獲得する意欲的なプログラムです。
この連載では、1年間にわたって3年1組の「15歳のグローバルチャレンジ」を追い、生徒の取り組みを様々な角度からレポートします。今回は第21回の授業、70か国が集結した「国連弁当会議」の様子です。
前回の授業では、各国大使が行う「公式発言」の準備を行いました。前回のおさらいは以下のリンクからどうぞ。
授業レポート第20回 授業テーマ「チーム編成をして『公式発言』を作ろう」
3年1組へ割り当てられている国は以下の10か国です(毎回確認します)。
日本 ミャンマー コートジボワール
チャド 南スーダン ポーランド
サウジアラビア チリ コスタリカ カナダ
第21回 授業テーマ「国連弁当会議」
いよいよ全70か国が集う「国連弁当会議」当日となりました。
今日の授業の目標は
「国連弁当」の理念とメニューの議題案を全会一致で可決する
です。
いよいよ中等3年生の大使たちは国連弁当会議当日を迎えました。
70か国が一堂に会するのは今日が初めてでしたが、すでに外交信書のやり取りを通じてある程度の「仲間作り」は進んでいました。
「飢餓・貧困の撲滅」を理念とする発展途上国同士ではすでに共通認識を持ち、具体的なメニューについても「○○は諦めるから△△を入れる方向で」といった話し合いも進んでいました。
各国とも最初は「主食・主菜・副菜・デザート」の4品を決めていましたが、「全会一致」のためにはある国のメニューを全面採用、という訳にはいきません。
主張と譲歩を繰り返しながら自国の主張を全体のメニューに入れるように交渉していきます。
例えばコートジボワール大使たちは「何とか特産品のカカオを使ったデザートを最終メニューに残したい」という強い意志を持っていました。
国連総会は「10か国の公式発言(各国1分)」と「会議休止(自由な交渉の時間)」を数回繰り返します。
序盤の公式発言では、会議前に用意してきた文面をそのまま読む国が大半でした。
しかし、会議の休止ごとに大きなグループができ、すでに自国の主張が達成された国などは、臨機応変に文面を更新して「私たちのグループでは○○という理念に向けて一致しています。皆さんもぜひご賛同ください」といった形に変えていました。
また、70か国が集まる全体会議では、グループ内での話し合い、グループ同士の話し合いなど、様々な局面が現れます。その中でグループをまとめていくリーダー的な役割を果たす大使も出てきました。
リーダーの発言を聞いていると、各国の意見を聞いて周り、共通点を見出しながら議論を進めているようでした。
これは本校が推進するアクティブラーニング型授業のグループワークで培った力と言えます。
「傾聴と承認」を基本に、他者の意見を尊重する姿勢がこのような大きな場でも存分に生かされていることが見て取れます。
「新しい時代のリーダーシップ」を体現している大使たちの姿に大きな頼もしさを感じました。
会議は順調に進行し、グループのリーダー同士がメニューのすり合わせを行い、ひとつの議題案(理念と具体的メニュー案)が提出されました。
提出国の代表としてオーストラリア大使が議題案を読み上げました。
そして、議題案には
国連総会は、世界各国が互いの文化を積極的に理解し合うことで、地球温暖化や貧困などの問題をより身近に感じてもらい、問題解決に向けた意識を持ってもらうことの重要性を想起し、以下のメニューを第76回期国連総会に出席する大使全員が食べる「国連弁当」のメニューとして採用することを決定する。
と記載してあります。
紆余曲折を経て「世界各国の文化の相互理解、地球温暖化や貧困などの問題解決」という理念を共有するに至ったようです。
議長の橋本教諭が「この議題案に賛成する国の大使はご起立ください」と発言し、全大使が起立して無事に全会一致での可決を見ました。
議場は大使たちの大きな拍手に包まれ、国連弁当のメニューが決定しました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%AC%E3%83%AA
注目のメニューは以下の通りです。
主食:ウガリ(穀物の粉を湯で練り上げたアフリカ伝統食)
主菜:ポトフ(ジャガイモ・タマネギ・にんじん・大豆ミート・キャベツ・トマトを使ったスープ)
副菜:スモークサーモンとスイスチャード・ベビーリーフとレタス・トマト・キュウリのサラダ レモンとバルサミコ酢のドレッシング
デザート:チョコバナナ
想像するだけでもワクワクする魅力的なメニューとなりました。ちなみに、実際に国連弁当を食べるのは3月中旬を予定しています。
生徒のふり返りには
・「多文化共生」と「環境問題」「飢餓・貧困」という理念の異なるテーマが同じテーブルの上で話し合われていたことが完全な一致に導けなかった一因だと思う(エチオピア大使)
・会議前半では理念がなかなか合致せず、メニュー決めに必要な時間を十分に残すことができなかった。本番前に同盟国とお互いに納得のいく理念を決めるなど、ロビー活動を積極的に行っていくべきであった(インド大使)
・今年のみらとび発表会は学年全員が活躍して楽しむことができました。前に出て発表するのはかなり緊張しましたが、自身の意見を強く主張できたときは緊張とは何か違う気分になりました(ギリシャ大使)
とありました。充実した会議の様子がうかがえる一方、その難しさを痛感した様子です。
担当の橋本教諭は「より良い世界を実現するために協力体制を築き、全会一致を成し遂げた大使たちに心からの拍手を送ります。次の会議は現実的な議題ですが、今回の経験を生かして取り組んでくれることを願っています」と国連弁当会議を総括しました。
大使たちはこの会議を経て、いよいよ2月の国連総会に臨みます。議題は2つ、「水問題」「地球温暖化」です。
冬休みに先輩の模擬国連部員が作成してくれた議題解説書(議題に関する詳細な資料や用意すべき内容)を読み込み、準備を進めます。
2月の総会では公式発言は全て英語で話すことになっていて、議題に関する知識だけでなく、英語の表現力も問われます。
担当の橋本教諭がこのプログラムを「学びの交差点にしたい」と話していたように、様々な教科の知識がクロスし、教科横断的な総合学習としての色彩を放っています。
3学期の授業も始まり、いよいよ大使たちは集大成に向けて走り始めました。
【15歳のグローバルチャレンジ 関連リンク】
「国連弁当会議」の様子をミニフォトギャラリーでご覧ください。
mail koho@toin.ac.jp
TEL 045-971-1411(代表)