2021年4月、桐蔭学園中等教育学校は探究授業「15歳のグローバルチャレンジ」を始動しました。
生徒は3人~4人のグループで或る国の大使となり、学年末の模擬国連会議に向けて1年間かけて諸問題の解決に取り組みます。
世界大会7年連続出場を誇る模擬国連部での活動をベースとした日本初の試みで、グローバルな視座を獲得する意欲的なプログラムです。
この連載では、1年間にわたって3年1組の「15歳のグローバルチャレンジ」を追い、生徒の取り組みを様々な角度からレポートします。
今回は第26回、1年間の総決算である「国連総会」のレポートです。
前回の授業では、国連総会に向けて「公式発言」と当日の戦略の確認を行いました。前回授業の様子は以下のリンクからどうぞ。
3年1組へ割り当てられている国は以下の10か国です(毎回確認します)。
日本 ミャンマー コートジボワール
チャド 南スーダン ポーランド
サウジアラビア チリ コスタリカ カナダ
第26回 「国連総会」
「15歳のグローバルチャレンジ」1年間の総決算、「国連総会」の日を迎えました。
この日は各国大使(4名グループが基本)が2つに分かれ、午前の「地球温暖化会議」と午後の「水問題会議」それぞれに参加しました。
両会議とも学年全70か国の大使が参加し、国連総会の会場は桐蔭学園シンフォニーホールです。
今日の授業の目標は
「地球温暖化」「水問題」ともに全会一致の決議案を採択する
です。
「国連総会の決議案」で最近大きな話題になったものが、ロシアによるウクライナ侵攻に関する決議案です。
国連総会は3月2日、緊急特別会合を開催し、ロシアに対して軍事行動の即時停止を求める決議案を193か国中141か国の圧倒的賛成多数で採択しました。
「ウクライナに対する侵攻」と名付けられた決議は、日本を含む96カ国が共同で提案。ロシアを含む5か国が反対、47か国が棄権及び意思を示さなかったものの、圧倒的賛成多数で可決されました。
決議に法的拘束力はありませんが、ロシアのウクライナ侵攻について「最も強い言葉で遺憾の意を示す」と明記してあり、国連のアントニオ・グテーレス事務総長も「国連総会のメッセージは強力で明確だ。ウクライナでの戦闘行為を今すぐ止めろ。銃声を今すぐ静めよ。対話と外交への扉を今すぐ開け」とロシアに呼び掛けました。
このように、国連総会は世界が直面する重要課題を取り上げ、世界の国々が自国の立場から意思を表明するのです。
さて桐蔭学園中等教育学校の国連総会、70か国の大使たちは「地球温暖化」と「水問題」に臨みました。
国連総会は「10か国の公式発言(各国1分)」と「会議休止(自由な交渉の時間)」を数回繰り返します。
今回の国連総会では「公式発言」はすべて英語で行われました。
「公式発言」ではまずは自国の紹介と直面する課題について話します。解決策について説明したうえで、他国に対して協力を呼びかけます。
学年の全生徒がシンフォニーホールの壇上で英語で発言を行う姿は、3年間の学びの集大成として大変立派なものでした。
会議の休止ごとに大きなグループができ、ホール内の広場所に集まって意見を述べあっていきます。
基本的には「発展途上国中心」「先進国中心」「その他の国々」といったグループができ、まずはそのグループ内での共通認識を作っていきます。
グループ内では各国の意見をまとめ、議論の方向性を示す役割を果たす大使も出てきます。司会の2人が議論の様子を見守り、会議の進行に貢献している大使をチェックしていきます。
数回の会議休止を挟み、議論は佳境を迎えました。グループリーダーの国が司会から壇上での発言を求められ、現在の議論の状況と決議案の草案を発表します。
いくつかのグループが壇上で発言し、さらに公式発言を繰り返し、いよいよ最終的な決議案の作成となりました。
「地球温暖化」では「2030年までに全ての国で温室効果ガス排出・石炭火力発電の削減に取り組むとともに、先進国から途上国への支援を拡充することで2050年までにカーボンニュートラルを達成させる」ことを目指す決議案が提出されました。代表国はツバルです。
「水問題」では「政府間の資金援助・技術支援・人材育成を加速させることで、淡水化技術と上下水道の整備を促進し水不足を解消する」という決議案が提出されました。代表国はエチオピアです。
「地球温暖化」では全会一致で決議案を可決することができました。
一方、「水問題」の会議では葛藤の末に反対票を投じた国が数国あり、全会一致の可決とはなりませんでした。
「自分の国の立場ではどうしても譲ることができないラインがあった」と、熟慮の末の反対でした。
「水問題」という難題を前に、大使たちは国の現状を調べ、データを収集して理念を構築しました。完全に担当国の国民となり、他国と議論を交わしました。
そして、悩んだ末に反対票を投じました。
これは、現在世界が難しい問題に直面していることの証です。ロシアによるウクライナ侵攻の問題でも、世界の国の様々な思惑が交錯しているのです。
「日本に住む中学3年生」という立場を捨て、世界の国々の大使に視点を置き換えて取り組んだ「15歳のグローバルチャレンジ」。
この「苦渋の反対票」にこそ、多様な視点で世界の難題に立ちむかう姿勢が表れていたのではないか、そう感じさせる結末でした。
最後に生徒のふり返りを紹介します(国連総会の翌週の授業で総会と1年間のふり返りを行いました)。
「この1年間で周りを巻き込んで話したり、意見を交換することができるようになった。そして、発表で堂々と話せるようになった。(チャド大使)」
「自分が今まで持っていた偏見とは現実は全く異なるという国がたくさんあった。2つの会議を通じて知らなかった国について知り、調べることが多くなった。いろいろな国のイメージが変わった1年間で楽しかった。(キューバ大使)」
「正直なところ、今までは先進国=いい場所、発展途上国=悪い場所、というイメージがあったけれど、いろいろな国の大使のプレゼンを聞いたり自分で調べることによって、今までの思い込みが間違っていたと気付いた。(南アフリカ大使)」
「今まで、自分は身のまわりの小さな出来事しか見えていなかった。自分の視野が地球レベルに広がったということが一番の成長だった。自分の意見に説得力や多角的な視点が加わったのも良かったな、と思います。(モロッコ大使)」
担当の橋本教諭は「ホールの壇上で、国の立場から英語を使って公式発言をするのは勇気が必要だったと思います。また、自分の担当国の立場から丁寧な議論ができました。一つの課題をさまざまな視点から見て問いを立てた経験を、今後に生かしてほしいと思います」と1年間の取り組みを総括しました。
この国連総会をもって「15歳のグローバルチャレンジ」の授業は終了しました。次回は2学期の総会で可決した「国連弁当」実食会のレポートをお届けします。どうぞお楽しみに。
【15歳のグローバルチャレンジ 関連リンク】
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