2021年4月、桐蔭学園中等教育学校は探究授業「15歳のグローバルチャレンジ」を始動しました。
生徒は3人~4人のグループで或る国の大使となり、学年末の模擬国連会議に向けて1年間かけて諸問題の解決に取り組みます。
世界大会7年連続出場を誇る模擬国連部での活動をベースとした日本初の試みで、グローバルな視座を獲得する意欲的なプログラムです。
この連載では、1年間にわたって3年1組の「15歳のグローバルチャレンジ」を追い、生徒の取り組みを様々な角度からレポートします。今回は第9回の授業の様子です。
この2週間、大使たちは担当国の抱える問題について調査をしています。
「新型コロナウイルス」「飢餓」「核兵器と安全保障」「対人地雷の犠牲者数」といった厳しい現実を直視しながら、前を向く大使たち。
1学期のまとめとして、いよいよ「国連総会の議題案」の作成に着手。今日の授業ではSDGs(持続可能な開発目標)をベースに、担当国が最も重視する目標を選択します。
授業レポート第7回 自国が困っていることを把握しよう(前編)
授業レポート第8回 自国が困っていることを把握しよう(後編)
3年1組へ割り当てられている国は以下の10か国です(毎回確認します)。
日本 ミャンマー コートジボワール
チャド 南スーダン ポーランド
サウジアラビア チリ コスタリカ カナダ
第9回 授業テーマ「国連総会の議題案を作ろう(前編)」
今日の授業の目標は
① SDGsを参考にしつつ、自国が取り組むべき問題とは何か、大使団で話し合うことができる。
② 自国が提案する国連総会の「議題案」のテーマを1つに絞り込むことができる。
の2つです。
授業では最初に「大使個人として解決したい国際問題」をできるだけたくさん挙げるワークを行いました。
このワークの注意点は、「国際問題でなければ国連で話し合うことはできない」という点です。
例えば、「日本の消費税の低減」については、国連で話し合うことはできません。自国内の政治に国連・他国は直接的に関わることができないからです(これを「内政不干渉の原則」と言います)。
また「北方領土問題」は日本とロシアの2カ国間の問題です。当事者の2カ国で話し合わなければなりません。国連総会は「世界全体で検討が必要なこと」を話し合う場なのです。
このワークでは、大使たちは「貧困の撲滅」「核軍縮」「飢餓問題の解決」「ジェンダー平等」「森林伐採規制」「地球温暖化問題」「異常気象への対応」「地雷・クラスター爆弾への対応」「新型コロナウイルスワクチンの公平な配分」「アフリカにおける教育の質の向上」など、数多くの問題をピックアップしました。
前回までの授業で担当国が抱える問題を調査した大使たち。大きな危機感を抱いているためか、たくさんの問題点を挙げることができました。
次に、橋本教諭から2020年のSDGs報告書が配信されました。SDGSとは、2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された、2030年までの国際的な目標です。
後の世代にも地球環境を受け継ぐための17のゴール・169のターゲットが設定されています。その理念は「Leave no one behind.(誰も取り残さない)」。ずしりと胸に響くコピーです。
今日のグループワークは、まず自国にとって何が一番大切なゴールであるかを大使団で共有します。大使団内でゴールが一致する国もあれば、様々な視点が混在し、なかなか一致したゴールを見いだせない国もあります。
そのゴールを土台に、国連総会で話し合うべきとされた議題案を出し、「国家ワークシート」を使って分類します。
「国家ワークシート」とは、その議題がどれだけ緊急性が高いか、またどれだけ世界全体に関わる問題なのかを整理するためのものです。
大使たちは付箋をワークシートに貼って「これはうちの国には重大なのだけど・・・世界で話し合うには小さい問題かもしれない」などと議論をしながら自国が提案する議題案を詰めていきます。
最後に(これが難しいのですが)国家として最も重視するSDGS目標を1つに絞り込み、大使団代表が全体の前で発表します。
「○○国大使団長の○○です。我が国が最も重視する目標はゴール○です。なぜなら…」という形式で、各国1分の演説を行いました。
その結果、各国が最重視するゴールは
日本
目標7
すべての人々の、安価かつ信頼できる持続可能な近代的エネルギーへのアクセスを確保する
ミャンマー
目標16
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
コートジボワール
目標4
すべての人々への、包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する
チャド
目標2
飢餓を終わらせ、食料安全保障及び栄養改善を実現し、持続可能な農業を促進する
南スーダン
目標1
あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
ポーランド
目標16
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
サウジアラビア
目標16
持続可能な開発のための平和で包摂的な社会を促進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供し、あらゆるレベルにおいて効果的で説明責任のある包摂的な制度を構築する
チリ
目標1
あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
コスタリカ
目標11
包摂的で安全かつ強靱(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する
カナダ
目標1
あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる
となりました。
次回の授業では、それをもとにA2版のポスターを作ります。また、ポスター内容を他国にアピールするための準備も合わせて行う予定です。
いよいよ議題案提出の佳境を迎えた「15歳のグローバルチャレンジ」。ふり返りシートから生徒の感想をお届けします。
「我が国の提案する議題案は他国と同じ方向だと感じた。これなら国連総会の議題になるかもしれない」
「自国がやりたいだけでなく、他国にも関係することを提案するのが難しい」
「解決したい問題はあるけれど、どうやって解決すればいいのかさっぱりわかりません」
「賛成の時だけ拍手というのは面白い。1分間スピーチと雰囲気が違って面白かったです」
担当の橋本教諭は「自国から世界を見た上で、俯瞰的なSDGsの視点から世界を見たことで新たな発見があったようです」と話しています。
【15歳のグローバルチャレンジ 関連リンク】
授業レポート第4回 プレゼンの「台本」を作り、発表練習をしよう!
授業レポート第5回 世界各国の「いいところ」を たくさん知ろう!
mail koho@toin.ac.jp
TEL 045-971-1411(代表)