教育・授業実践
オンラインでもアクティブラーニング 自己学習力を高める
Vol.15 渋倉 崇行 先生(大学院 スポーツ科学研究科)
「ジュニアスポーツコーチング論」は、スポーツテクノロジー学科 スポーツ科学コース スポーツコーチング専攻の学生が3年次に受講できる専門科目(スポーツコーチング専攻推奨)です。この授業を通して、将来はスポーツコーチや指導者としてスポーツに関わることを目指す学生がコーチングスキルを学び、そこでの学びを現場での実践力に変えていくことを目指しています。
取材当日はスポーツテクノロジー学科の先生方によるオンラインによる研究授業として実施されました。開始時刻になると、渋倉先生は学生にオンライン授業を受ける準備を呼びかけて、学生一人ひとりの出席確認を行いました。そして、授業資料がきちんと見えているか全員に問いかけ、学生は手を振って返事をしていました。その後も渋倉先生は、授業で抑えるべきポイントについて学生が理解しているか否かをその都度チェックするとともに、授業課題に対して興味関心を抱き、集中して取り組めるように促す声掛けを行うなどのサポートをしていました。また、「コミュニケーションの方向を考える」という演習課題では、実際に図形を描くという作業を体験させることで「一方向と双方向のコミュニケーションの違い」を学生に実感させていました。オンラインでも実現している学生中心のアクティブラーニング型授業の工夫点などについて、渋倉先生にお聞きしました。
先生へのインタビュー
――授業の目的と主な内容を教えてください。
渋倉先生:この授業科目では、1・2年次を通して習得してきた様々なコーチングに関する知識や理論を、さらに現場で使える実践力に変えていくことをねらいとしています。それを構成する上での基礎となる考え方は「体験学習」です。いろいろな形でのコミュニケーションやリーダーシップに関わる体験を通して「気づき」を得て、その「分析」を行い、さらに自分自身がどのように成長していくかという「仮説化」の作業を行います。この一連の流れは「体験学習のプロセス」と呼ばれています。その中で「自己学習力」を養っていくためにアクティブラーニングを導入しています。 今回の授業では主に「対他者力」に焦点を当てて、インターパーソナルスキル(周囲の選手との関係性における問題を解決する力)を高めることをテーマとしています。コーチング現場で起こり得る、選手との人間関係に関わる問題を適切に対処していくために必要なスキルを理解し、それに関わる自分自身の特徴や今後の行動の方向性を特定していくものです。
――授業での工夫点はどんなことですか。
渋倉先生:本来ならば対面で学生同士がコミュニケーションをとっていく授業なのですが、今回はオンラインという限られた環境でもアクティブラーニングを行うことで、できるだけ体験的な学びとなるように進めています。「一方向と双方向のコミュニケーション」を学生に体験させ、知識を一方向に与えるのではなく、体験や実感を通して学びながら「体験学習のプロセス」を踏ませることで主体的な学びに結びつくように工夫しています。知識の定着に止まらず、学生自身が楽しんで授業に参加したいという気持ちや主体性を大切にしているからです。 また、選手主体のコーチングを学んでいく授業なので、私がモデルとなって学習者主体の授業を展開することに大きな意味があると考えています。「先生と学生」⇒「コーチと選手」という関係です。このような体験が、学生にとって将来の自分のコーチングへの意識づけや動機づけにつながっていくと思っています。
――授業を通した学生の学びについて教えてください。
渋倉先生:学習内容だけではなく、アクティブラーニングの重要ポイントである「自分自身の気づき」に大きな学びがあると思います。今回の授業では「双方向のコミュニケーションのメリットとデメリット」「観察の視点を持つ」というポイントがありましたが、さらにこれらを通して「学生個人の自己学習力」というコンピテンシーに注目しています。コミュニケーションの取り方や観察力を身につける体験を通して、「学ぶというのはどういうことなのか」を知ってほしいと考えています。そのプロセスに対して真の学びがあるのではないかということを、この授業全体を通して意識しています。 実際にコーチングの現場でもコーチ自身が学び続けるという姿勢がとても重要になってくるので、そういう意識を今のうちから養いたいと思っています。
授業の様子
受講生の感想
[以下、スポーツテクノロジー学科3年生の感想] 金田 怜さん ジュニアスポーツコーチング論では、スポーツコーチングを行う上で指導者にはどのような知識が必要とされるのか、その学んだ知識をどのように生かしていくのかを考え、指導者としてより良いスポーツコーチングができるように学んでいます。授業内では、スポーツコーチングを行う環境をどう整えるか、今ある状態をどのように変えていくのかなどを、自分自身が考えることを行っています。また、意見を述べることや、他の学生の意見を聴くことによって自分自身にはない考え方にも気づくことに繋がるので、深く学ぶことができています。今はオンラインという制限がありますが、それでも対面授業の時のように積極的なアクティブラーニングが行えていると思います。そして、授業の中で出た意見をまとめたり、授業内で得た知識や気づいた点をまとめたりすることによって、指導者としてスポーツコーチングを行うためのスキルを上げることに繋がっていると思います。 この授業を通じて、将来、自分自身がどのような指導者になってコーチングをしていくのかをイメージしやすくなると思うので、授業で得た知識を基にしてより良いスポーツコーチングが行えるように、これからも日々の授業にしっかりと取り組んでいきたいと思います。 早坂 直樹さん ジュニアスポーツコーチング論はアスリート・センタードという言葉をはじめ、選手中心の指導法について学生たちとディスカッションをして知識を深めていける授業です。この授業は、スポーツコーチや指導者を目指すにあたって何が重要なのかを考えるとても良い学習環境だと思います。私は、理想の指導者とは「目的なく生徒・選手を制限させずにのびのびと練習できる環境を作りだせること」「選手が心置きなく挑戦し、その挑戦を支える仲間が自然と発生するような空間を提供できること」だと考えています。そしてこの授業を通して、「相手目線で考えるためにはどうするべきなのか」「指導者はどこまで道を示せばよいのか」など、自分の大好きなコーチング哲学に関する知識をさらに深めることができる講義になっていると感じています。 今後は、授業で学んだことを基にして誰かに指導をする立場になりたいです。これは、今アルバイトをさせてもらっているスポーツインストラクターなども含め、まずは自分の行動を背中で見せていくことが重要だと考えています。そして、指導者という立場に属するだけでなく、生徒・選手の心に火をつけられる最高の指導者になることが私の人生の目標です。 宮崎 菜ノ葉さん スポーツコーチ・指導者を目指す上でジュニアスポーツコーチング論を受講している私は、「グッドコーチとは何か?」を考えながら授業に参加しています。グッドコーチについては受講する前には客観的にしか考えていませんでした。「グッドコーチとはどんなコーチであるのか?」という問いには“これ”という決まった答えはなく、本当のグッドコーチとはその年代や時代に合わせて変わっていくものだということを学びました。授業の中では場面や出来事によって、指導者や選手としての対応の仕方などを様々な視点で考えます。今まで私たちが選手の立場として経験してきたことや、当たり前のようにスポーツをしていた時にはどんな人が携わってくれていたのかなど、授業の中で改めて学ぶことがとても多いと思います。そして、その状況によって臨機応変に対応しながら視野を広げ、スポーツ心理学の観点からどのように対応するのが良いのかを、一緒に授業を受けているメンバーと共に考えています。 A.Y.さん ジュニアスポーツコーチング論の授業を受けてきて、指導者と選手の関係について考えることが多くなりました。例えばこの日の授業内容で言うと、一方向と双方向のコミュニケーションを実際に体験してみるという内容があり、それぞれのメリットとデメリットを感じることができ、さらにそれぞれの良さをどのように利用したら両者の関係性を上手に築くことができるかを学ぶことができました。そして、指導者を目指す中では先の先のことを考えて、常に学び続けることが大切だと感じました。この授業では、「どんな事故や危険があるか?」「それを防止するには事前に何をすればよいか?」「もし、起こってしまった場合はどんな対処をすればよいか?」などのように先の先のことを考えさせられることが多く、さらに自分の考えだけでなく他者の意見を聞いて新たな発見をすることがあるので、自分が指導者の立場になった時のことを、より考えやすいと思います。 また、渋倉先生の授業の進め方はとても受けやすく、学生同士の話し合いが行われたり、必要な情報を簡潔に提供してくれたりなど、限られた時間でも中身の濃い内容を学べると思います。そのような面でも指導者としての力を吸収できたらいいなと思っています。 最後に、私は来年度に教育実習が控えているので、今回学んだことが少しでも生かせたらいいなと思っています。さらに、「先生としては良いけど、人としてはちょっとな…。」と言われている指導者のことをよく聞くので、私は指導者としてだけでなく、人としてちゃんとした人間になりたいと思います。