桐蔭横浜大学

桐蔭横浜大学Toin University
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教育・授業実践

「実践的指導力」を教育現場へ ポストコロナの「ICT活用授業」
Vol.13 佐藤 豊先生・井口 成明先生・木原 洋一先生(スポーツ健康政策学部)

掲載日:

 スポーツ健康政策学部の「保健体育授業演習Ⅱ(3年次・前期)」は、「保健体育授業演習Ⅰ(2年次・後期)」をステップアップさせた専門科目です。
 取材をしたこの日の授業では、学生は授業班、観察班、児童班に分かれ小学3年生を対象とした保健の模擬授業を行っていました。授業担当者から指導案の説明が行われた後、模擬授業がスタートしました。授業班の学生は模擬授業を展開し、児童班の学生は自分が小学3年生であったことを想定しながら模擬授業を受け、観察班は指導案や授業の進め方などを観察・分析していました。
 授業の最後では、各班の役割の観点に立った発表をし、全員で模擬授業での学びを共有する時間が取られました。観察班からは、模擬授業分析の視点として「声の大きさ」「視線・表情」「指示・説明」「板書」が示され、授業班の学生によい刺激を与えていました。また、本学学生が出演した映像資料(文部科学省監修コロナ禍での体育授業)も活用されていました。
 この授業は、コロナ禍以前であれば小学校教室を想定した学習環境が設定されていました。しかし、今回は新型コロナウィルス感染予防対策を徹底した大学の大講義室で模擬授業を行いました。このような環境下で実施した本授業の内容とポイント(ICT活用の工夫点)について佐藤先生にお聞きしました。

先生へのインタビュー

取材班:本授業の目的と主な内容を教えてください。 佐藤先生:本授業は保健体育科教員としての力量形成を図ることを目的に、保健および体育の模擬授業を主要な活動内容としています。具体的には、各自に保健および体育の授業を計画・指導してもらい、それらの授業を振り返ることによって授業の計画・指導の改善 点を明らかにしていくようにします。この模擬授業は小学校・中学校・高等学校の課程について行うので、学生は教育実習前に幅広く経験することができます。 取材班:教員を目指す学生の重点的な学習ポイントを教えてください。 佐藤先生:スポーツ健康政策学部では学校現場で生かす「実践的指導力」の育成を目指して、2年次後期から3年次後期まで保健体育授業演習Ⅰ~Ⅲ(以下「演習Ⅰ~Ⅲ」と記載)を通してステップアップしながら学習します。  「演習Ⅰ」では学習指導案の作成や授業づくりにおいてグループワークを通して学びます。「演習Ⅱ」では教師役、生徒役、観察役に分かれたマイクロ・ティーチングと呼ばれる方法を用いて、組織的観察法や録画映像による実践的指導力チェックによって自身の授業設計力、授業実践力、省察力の3つの視点で自身の課題を浮き彫りにしていきます。一方で学生同士の模擬授業ではリアル感の欠如が限界と言われているため、「演習Ⅲ」では近隣の小学校・中学校・高等学校での体験授業を経験します。ここでは、単元設計や教材化、整列指導や発声など基礎的技術の難しさ、実際の児童・生徒との対面による緊張感を感じることで現実の授業の難しさを体感します。学生にとっては教師になるための覚悟を決める機会となります。 取材班:「保健体育授業演習Ⅱ(前期)」での学びについて教えてください。 佐藤先生:この授業の最終段階では、1時間の指導案作成ではなく単元構成図を作成します。この活動を通して、カリキュラム・マネジメントの視点から前後のつながりを踏まえた最後の検討をしています。また、授業映像は、例年蓄積されているので、それらも参考として授業を作成していきます。先輩から後輩へと継承し蓄積しているジグソー法を用いた体育の協同学習や、ICTを活用した運動計画作成など最新の指導法を学び、それらを取り入れた授業づくりでは担当グループが時間をかけてじっくりと学習指導案を修正したり、当日の教材・教具の作成に取り組んだりする意欲的な姿が見られます。体験学習理論に基づく体育科教育学の先進的プログラム(設計、実践、省察の繰りかえしによる実践力の育成)を学ぶ機会の中で、段階的かつスパイラルに学び続けることで、自身の強みと課題を明確にして教師という教育のプロフェッショナルになる心構えとスキルを養います。毎時の授業は、限定公開サイトで視聴し、実践的指導力チェックの中から、視点を決めて学生間で相互評価をします。最終振り返りの発言では、現職教員の研修会で聞かれるような深い省察(技能以外の指導への着目や指導内容と教材の適切さなど)が見られる学生も多く、授業成果を実感している様子が窺えます。 取材班:授業でのICT活用について教えてください。 佐藤先生:コロナ対応としてZoomでの模擬授業実践も予定しています。そこでは、ブレイクアウトルームでのグループディスカッションやパワーポイント活用、ワークシートなどを組み合わせたアクティブラーニングの学びを進めるなど、学生が教師となる際のICT活用スキルの向上も図っています。  また、本授業では、Googleフォームによる実践的指導力チェック、アーカイブによる過去の学生の映像、模擬授業映像の視聴、Googleスプレッドシートによる毎時の振り返りシート(自己評価、相互評価)の提出等、Googleドライブを使用して教材を保管することによって、学生が自分でフィードバックすることができます。同時に指導する私たち教員側も授業改善のためのデータとして、学生の課題、経年の回答傾向の変化などを分析し改善に役立てています。今後の授業におけるICT活用のポイントは、クラウドを複合的にどのようにして使っていくかという点にあると思います。

授業の様子


受講生の感想

[以下、スポーツ教育学科3年生の感想] 佐々木 想良さん 自分や他の班の模擬授業からは学ぶことがたくさんあるので、未だにどのような授業展開が良いのかということにたどり着けていないのが現状です。しかし、この経験は将来失敗しないための機会だと思っているので、授業内でどんどんチャレンジして、その失敗をこれからの糧にしていけたらと思います。Zoomでの模擬授業の設計と実施の難しさも痛感しました。自分はスポーツが好きで、将来はそれに携われる職業に就きたいというのが中学生の頃からの夢でしたが、プレーヤーとして関わることは難しかったため、教育者として学校という現場から体育や部活動などを通してスポーツの魅力を伝えていきたいと思っています。今はコロナ禍による運動制限が大きいですが、学生生活の中で対応策を考えて、教員になれた時に活用できるようにしていきたいと考えています。 福田 菜南子さん 教師側と児童・生徒側に分かれて模擬授業を行う中で、実際に指導する際にどのような授業を展開していくのか、どのようなところに重きを置いて話していくのかなどのさまざまな課題や問題にぶつかることで、教育実習に向けて自分の教師力をつけるために必要不可欠な経験だと思いました。コロナ禍の影響でオンラインでの模擬授業があり、実際に教師として携わるようになった時のための体験として、児童・生徒に良い授業を提供するために必要だと感じました。教育の場でしっかりと心に響く授業をするためにも、教師を目指す学生はどんな授業形態でも対応できるようにたくさん経験を積む必要があると思います。“教師”という自分の夢を叶えるために、これからも精進していきます。 萩原 聖大さん 実際に模擬授業をおこなったり受けたりしてみて、良い点や悪い点がたくさん出てきました。そこをどう改善していくか、どうやって自分たちに取り入れていくのかなどを考えていける授業でとても楽しいです。コロナ禍によって時代の変化はかなりあると考えていて、教育の方法もICTを活用するなどかなり劇的です。今までに受けてきた教育や自分の経験など、次の世代に自分の手で引き継いでいきたいと思って頑張っています。 鬼目 公助さん 私たちは教育の勉強をしているとはいえ、指導案の作成の仕方や教育に関する理論を知っているなど理想の授業像を理解しているにすぎません。ですが、1年後には教育実習に行って授業を行う立場となり、自分の指導案を授業で実際に実践する力が求められます。そこでは理想像を目指しつつ、いかに現場で使える指導案を作るかが重要なので、この授業は正に使える指導案の作成とその実践に役立つと思います。また、教員という仕事は児童・生徒の人生の土台になる部分に携わる非常に重要な仕事なので、常に学び続けることが必要だと思っています。 北口 怜香さん 今年はコロナ禍ということもあり、授業の準備をする中でペーパーの資料だけではなくオンライン授業対応のことも考えて、ICTの活用としてパワーポイントを主として授業を進めることをグループ内で意識しました。実際に模擬授業をやってみると、話し方、児童の反応と教師側の対応、時間内で収めることなど全てが難しく、多くの課題を見つけることができて良い経験になりました。特にマスクを着けての授業は今だからこそ体験できることなので、今後のイレギュラーな場面での対応に繋がると感じました。教育実習でも活かせるように頑張りたいと思います。コロナ禍であっても学んで成長し続ける子どもたちのために、自分自身も学び続けることが大切だと考えています。教師への道は険しいと思いますが、その術を学べる環境があるのならば無駄にはしたくないし、今だからこそ学べることもあるので、これからたくさんの経験を積んで目標実現に向けて頑張りたいと思います。 I.N.さん 2年次に学んだ内容を基に指導案を作成し、模擬授業を行い、評価をするという実践体験ができるので、教員として必要不可欠な能力や今の自分に足りないものなどを発見できる素晴らしい授業だと思います。多くの小中学校ではタブレットが導入されていて、ICTを活用した授業が当たり前になっているようなので、教員志望者もこれらを駆使した授業をしていかなければなりません。この授業でタブレットを用いるなどのICTを活用した模擬授業ができることは貴重な体験です。教員として求められるスキルを身につけ、さらに伸ばすことができる授業だと思っています。私は生徒の幸せを自分の幸せと思える教員になりたいと考えていて、そのためには教員自身が生徒から学び続け、生徒の立場に立って考えたり判断したりできなければならないと考えています。これからの児童・生徒と触れ合う機会では自分のスキルを磨き上げるとともに、様々な体験を通して子どもたちの特徴や性格、接し方、関係の保ち方などを感じていきたいと思っています。


教員プロフィール:佐藤 豊

佐藤 豊

スポーツ健康政策学部 スポーツ教育学科 学科長 教授

 佐藤 豊 SATO, Yutaka - 教員紹介



教員プロフィール:井口 成明

井口 成明

スポーツ健康政策学部 スポーツ教育学科 准教授

 井口 成明 IGUCHI, Nariaki - 教員紹介



教員プロフィール:木原 洋一

木原 洋一

スポーツ健康政策学部 スポーツ教育学科 専任講師

 木原 洋一 KIHARA, Youichi - 教員紹介



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