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【メタ認知力】6年生の「1年生お手伝い」を通して

4月6日にシンフォニーホールにて入学式を迎えた1年生。4月7日(金)に初めて小学校校舎に登校してきました。最寄り駅からのスクールバスに乗って小学校まで来ましたが、そこから下足箱はどこか?教室はどこか?学校に到着してから何をするのか?などすべて初体験で右も左もわかりません。

そのため、本校では6年生が登校初日から1年生を出迎え、学校生活について付き添う活動を行っています。

6年生へはまず、1年生が登校する前に学年集会で「1年生が困っているのでぜひ助けてほしい」と伝えました。初めて登校して何もわからない1年生の様子を知った6年生からは「助けてあげたい!」「お迎えします!」という前向きな声が聞こえてきました。6年生としても、1年生と初めて関わるので、「どんなこと話したらいいのかな?」「うまく対応できるかな?」という不安の声もありました。そういう気持ちに共感しつつ、まずは自分たちにできることを考えて実践してみよう、と声をかけて1年生のお迎えに向かいました。

1年生が乗ったスクールバスが到着する下足箱へ行き、待ち受けます。6年生にとっても登校初日の朝でもあり、少しテンションの高い様子がうかがえました。

 

そして、1年生が到着。すると積極果敢な子からどんどん1年生の前に行き、互いの名前を紹介する様子が見られました。そこから1年生を連れて、下足箱、そして教室へ誘導します。教室では、朝準備の仕方について、1年生の担任の先生と確認しながら6年生が1年生をサポートします。準備が終わった後、そのまま1年生とコミュニケーションをとる6年生もいれば、うまくコミュニケーションが取れずにその場を離れてしまう6年生もいました。1年生の朝準備が終わると、6年生は1年生とお別れして、6年生教室に戻ります。

戻った6年生は、学年で再度集まり、1年生とのかかわりについて振り返ります。

6年生の引率16年生の引率01

 

 

 

 

 

 

 

 

振り返りでは、まず子どもたちに自由に書かせました。以下は子どもたちが書いた振り返りです。

振り返り01

振り返り02

振り返り03

 

内容を見てみると、自分の接し方について全体的に振り返っている子もいれば、「良かったところ・なおしたいところ」と観点を分けて書いている子や、6年生全体の動きについても振り返っている子もいました。

ここで近くの友だちと共有タイムを設けました。友だちがどんな観点で書いているのか、互いに伝えあいます。友だちがどんなことを書いているのか、子どもたちも興味津々なので、積極的にやりとりしていました。そして、書いている観点を全体で共有します。

観点01

共有した上で、自分の振り返りカードに追記しておきたいことを赤字で書き加えました。友だちから、自分とは違う観点の振り返りがあることで、見方が広がったと感じる子もいました。

見方の広がり01見方の広がり02見方の広がり03

最後に、翌日以降の1年生のお手伝いに向けて、改善点や変更点を全体で話し合いました。最初は、関わりに不安がある子のために、どのような関わり方があるのか、互いに意見を出し合いました。

「朝準備の手伝いをしてあげる、持ち物の整理整頓してあげる、本を読んであげる、…」などの意見が出ました。関わり方に不安を感じている子にとって、これらの話は非常に助かったようで、「そっかぁ」とつぶやく声が聞こえてきました。全体で共有した意見は下のカードです。1年生の安心感のためにサポートしてあげることはもちろん、その後の生活を考えて、自分でできるものは見守るという意見も出ており、1年生のことをしっかりと考えた意見が共有されました。

次回に向けて01

 

そして迎えた2日目。昨日の経験と今日のめあてを個々に持って1年生のお迎えに向かいます。

昨日一日経験したことで自信をつけた子が多くいました。また、友だちからのアドバイスを活かして、本の読み聞かせをしてあげる6年生もたくさんいました。前日に振り返ったことをしっかりと活かして取り組んでいる子がたくさん見られました。

それだけではなく、さらに下足箱のところでは、1日目の反省を踏まえて自主的に交通整理をしてくれている6年生もいました。また、教室では1年生の様子を見て回り、困っている様子の1年生にすかさずサポートしてあげている6年生もいました。前日の様子から自分なりに考え、自分にできることに進んで取り組んだ子がいたことはとても素晴らしいことだと感じました。

6年生と1年生の写真差し替え6年生の取り組み02

6年生の取り組み03

2日目の朝のお手伝いを終えて、再び個人で振り返りました。2日目の振り返りを書いたのち、1日目の振り返りと比較しました。自分なりに変化したと思うところに蛍光線を引きました。すると子どもたちからは「前日できなかったことができた!」「成長してる!」といった前向きな言葉が出ていました。「自分の変化を感じた人?」との問いかけに多くの子が手を挙げ、「振り返りを書いたことで成長したことがはっきりわかりました。」という意見も出ました。

1年生の振り返り01

1年生の振り返り03

 

1年生の振り返り02

活動に取り組むだけでなく、しっかりと振り返り、次なる活動に向けて自分なりにめあてを持って取り組むこと。そうすることでより大きく変化し、それを自分自身が実感できる。PDCAサイクルを回すことの良さを子どもたちは感じているようでした。

1年生との交流01

 

 

 

1年生との交流02

 

 

 

熱く語れるポスターセッション 自分の興味関心と社会とのつながりを考えよう~SDGsを参考に~

『今、求められる力を高める総合的な学習の時間の展開』(文部科学省,教育出版2011)では、探究的な学習について以下に書かれています。

探究的な学習とするためには、学習過程が以下のようになることが重要である。

 ①【課題の設定】体験活動などを通して、課題を設定し課題意識をもつ

 ②【情報の収集】必要な情報を取り出したり収集したりする

 ③【整理・分析】収集した情報を、整理したり分析したりして思考する

 ④【まとめ・表現】気付きや発見、自分の考えなどをまとめ、判断し、表現する

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こうしたことと、桐蔭学園小学校で掲げている6つのキーコンピテンシー(思考力、創造力、チャレンジ力、メタ認知力、思いやり、エージェンシー)とを意識して探究活動に取り組むように考え、教科の「総合」の探究的な学びについて、昨年度よりカリキュラムを再編成して取り組んできました。今年度の6年生は再編成したカリキュラムで取り組んで2年目となります。

ポスターセッションに至るまでの今年度の6年生の総合(探究)の歩みを少しご紹介します。6年生では、それぞれが興味・関心あることについて、そこに関わる社会的な問題にどのようなものがあるのかを調べ、その問題に対して、どういった解決方法があるのかを自分なりに主張することにしました。

探究的な学びを深めていくためには、「課題の設定」。つまり子ども自身の「問い」がどういったものになるのか、ということが非常に大切です。「問い」については、まずオープンエンドになっていることが必要です。社会の中に存在する様々な課題は、いろいろな要素が複雑に絡み合ったものであり、単一の答えが出るものではありません。そういったことを踏まえ、探究では問いづくりを最も大切にしています。

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ここからは、思考の流れを追うためにある児童の探究的な学びに焦点を絞って説明します。

まずは、子どもたちに学習の見通しが持てるように、図1を提示しました。こうしたものを示すことによって、自分が今どの段階を取り組んでいるのか、それがこの先どのように進んでいくのか、ということ常にイメージしながら進めていけるようになります。

次に、自分の興味・関心について掘り下げていくために、自分についての分析を行いました(図2)。パッと思いつくことを1つ挙げることは、子どもたちにとって簡単なことです。しかし、様々な観点から問いかけていくことで、改めて自分の中にどんな興味・関心があるのか、自覚することができます。

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そして、それをもとに曼荼羅チャート(図3)を使って、どうして自分はそれに興味・関心があるのかを整理することで、より強く興味・関心があるものはどれなのかを可視化することができ、自分の興味・関心がどのような共通性をもっているのかなど、より大きな視野で考えることができるようになります。また、こうして複数の興味・関心を挙げることにより、実際にそれが社会的な問題・課題とどのようにつながっているかを考えたとき、最初に挙げた興味・関心のあるものとのつながりが見出せない場合でも、自分の中に課題設定をする選択肢が持てます。この取り組みによって、子どもたちの問いは似通ったものからより多様なものに変化していきました。この児童は、最初に文房具やハワイ、赤ちゃんなどを書いていましたが、複数書いていくことで社会的な問題・課題とつながって学習を進めていくのにより自分にふさわしいテーマとして「発酵」を選択しました。こういった変化が多くの子どもたちの中で起きていました。図4-1では、自分の設定した興味・関心がテーマ(SDGs)とどう関わりそうなのか見通しを立て、図4-2で探究をし始める最初の問いを明確化することができ、探究への計画を持てるようになっていきました。

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次に実際に探究をしていく流れについてです。ここからは、【課題の設定】→【情報の収集】→【整理・分析】→【まとめ・表現】→【課題の設定】→…と個人内で探究的な学びのサイクルを回していきます。図5-1、5-2ように、「探究学習シート」というものを使って、1人1人が、探究的な学びのサイクルを進めていきます。ここで大切なのは、シートの最後にある「次なる問い」の部分です。調べたことをさらに深掘りをしたり、別の観点から調べたりすることで探究のサイクルが繰り返され、より深い学びにつながります。また、調べ学習が不十分であったり、調べた内容を自分なりに解釈できていなかったりする場合、「次なる問い」を生み出すことが難しくなるので、1人1人に助言を適宜することが大切です。そうして、個人で探究的な学びを進めた先に2学期は、小論文形式で【まとめ・表現】するようにしました。9月にスタートして、12月に小論文の形でまとめることができました(図6)。

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3学期は、ポスターセッションで表現するための、アウトプット、つまり【まとめ・表現】することに焦点化して学びを進めました。自分が考えたことをいかに人に伝わるようにするのか、ということについて考えを深めるために、聞き手としてどういった観点で見るべきか、発表者としてどういったことを大切にして取り組むべきか、子どもたちと教員が話し合いながら、評価ルーブリックを作成しました(図7)。そのルーブリックを基に、自分の発表を振り返ったり、当日のみんなの発表を自分たちで評価したりするようにしました。

図7に示したのは実際に児童が練習時に友だちの発表を評価したものです。当日も同じルーブリックを使用して、お互いの発表を聞き合うようにしました。

こうした学びを経て、2月17日(金)に大学のクリエイティブスタジオにて、ポスターセッションを実施しました。これまで学んだことを発表する場ということで、当日は、保護者や学園関係者に招待状を出して聞いてもらうようにしました。5年生もその様子を見に来てくれました。子どもたちは普段あまり関わりのない人や面識のない人にも自分たちの学びを聞いてもらうことで、緊張感を持って取り組むことができたようです。また、保護者の中には、それぞれの分野を専門とする方もいらっしゃり、調べたことについて助言をしてくださったり、交流したりする様子も見られました。これは子どもたちにとっては非常に大きな学びであったようで、そういった交流をした児童は、その様子を活き活きと話してくれました。

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探究的な学びを進めていくためには、本校が掲げている6つのキーコンピテンシー(思考力、創造力、チャレンジ力、メタ認知力、思いやり、エージェンシー)を活用して取り組むことになります。授業者として、コンピテンシーの育成を意識して取り組んできました。教員も、児童への発問や助言、関わり方、その一つ一つを大切にするように変化しました。すると、子どもたちもじっくりと思考して取り組むようになったり、難しい調べ学習にもあきらめず挑戦したりするようになり、1人1人の創造的で多様な考えを生むことにつながりました。

探究的な学びの発表をポスターセッションで実施したのは今回が初めてとなります。今後は本校6年間の学びのまとめとして、この取り組みを継続していきます。

また、桐蔭学園では中等・高校ともに「探究」を学びの3本柱のひとつに位置付けており、「未来への扉」(=みらとび)と呼んでいます。こうした学びを、小学校の先のステップでも引き続き取り組み、さらに探究的な学びのプロセスを習得し、社会で活躍できる子どもたちになっていくことを願っています。

文責 玉井 山尾 瀬山