運動会を6年生がプロデュース・企画・運営しました!
第6学年主任 吉川 慎司
この教育実践のねらいは、桐蔭小が掲げている6つのコンピテンシーの一つである「エージェンシー」を育むことにありました。「エージェンシー」とは、新たな価値を見出したり、対立やジレンマを克服したり、責任のある行動を取ったりできる力のことです。その力を身につけるために、自らが進んでいくべき方向性を設定したり、目標を達成するために求められる行動を特定したりしながら自らを成長させ、それらの力を活かして身近な集団や社会がよりよくなるように、自ら考え、判断しながら行動をします。
運動会を6年生みんなで、関係する人たちの協力を得ながらプロデュース・企画・運営するには、随所に、上記「エージェンシー」が必要になってきます。つまり、「運動会のプロデュース・企画・運営」は、「エージェンシー」を育む絶好の機会になると考えました。
9月、オンライン授業が始まり、「6年生にとっては最後の運動会なので、君たちが『コロナ禍の中、運動会をやってみたい。』と言うなら、先生たちは、『6年生に『運動会』を『プロデュース』してもらってもいいのではないか?』と考えているのだけど、どうですか?」と6年生たちに聞きました。
多くの6年生の反応は、「えっ? 今、先生、何て言いました? 『(5年生の終わりに行った)6年生を送る会』や『1年生を迎える会』ではなく、『運動会』を『6年生が』プロデュースしちゃっていいんですか?」という「驚き」派や「感染のことを考えたら難しそうだけど、最後の運動会、プロデュースしてみたい!」という「慎重」派・「ワクワクの始まり」派など様々でした。その後、運動が苦手な人もいるので、個々に意見を提出してもらいましたが、「運動会、止めましょう。」という人は一人もいませんでした。そこで、この企画は動き出しました。
そして、「感染に気を付けながら、どこまで競技などができるのか?」ということを具体的に考え、意見を交し合うステップへと進んでいきました。
その中で、当時まだ全国や神奈川県の感染者数が多い中、最も実施が難しそうだった「騎馬戦」に関して、話し合いが交わされました。「低学年の頃から見ていて高学年になったらやりたかったけれど、流石に『騎馬戦』は無理かなぁ…。」という良くも悪くも〝常識的“な考えの人が多かったので、「世間で『不可能だと思われていること』を『可能』にしていくことって、夢のあることじゃない?」と「『なし』だと決まっている訳ではない」ことを暗に示し、6年生たちの背中を押してみました。
すると、すぐに、「不織布マスクをして、前後に消毒をすれば、やっても大丈夫なのでは?」という意見が出てきました。しかし、当然ですが、それに対して、「やっぱり、騎馬を組むのは、密着してしまうので、無理だよぉ…。」という意見が出てきて、「では、騎馬を組まずに、帽子の取り合い(騎馬戦の醍醐味である攻めと守りの駆け引き)だけでも何とかできないか?」という意見へと発展し、「軍手をして帽子を取り合えば流石に大丈夫。」という意見が加わり、『城攻め』という「騎馬戦」を改良した「オリジナルの」競技が誕生しました。
他の種目も同様にいくつもの工夫を提案、話し合いし、「感染下の実施」へこぎつけました。
そして、「運営」段階へと進み、様々な担当(開閉会式やZoom配信、放送、1~4年のそれぞれの学年担当、審判・用具、パンフレット)に分かれて準備を始めました。
開閉会式担当は、「仲間への一言」というそれぞれの学年の士気が上がるものや閉会式にキリリンを登場させて感想を聞いて場を盛り上げるものなど、「6年生目線」の企画を進めていきました。一方で、「国旗・校旗掲揚」なども組み込まれ、6年生たちの中に、そういう「伝統」も大切にする気持ちが育っていることがわかったことも、私たち教師にとっては収穫でした。「ラジオ体操」を1・2年生に教えることも、「高学年としての役割」と考え、有志の人たちが奮闘してくれました。その延長線上で行われたのが、1年生の種目に先立って行われた「45秒ダンス」でした。
Zoom配信担当は、機材の扱いをマスターし、カメラのアングルを工夫したり、分かりやすい実況を心掛けたりしました。初めは「難しい…。」と不安になっている人もいましたが、「実況のコツ」を活かし、数日間であんなに工夫された素敵な実況まで持っていった6年生たちの「成長力」には驚かされました。
1~4年の各学年担当は、運動会当日だけでなく、事前に一緒に準備をしたり、取材をしたりしてきました。当日は、1年生が競技間にトイレに行くのに付き添ったり、擦り傷を負った子が保健室へ行くのに付き添ったり、競技への誘導を行ったり、細やかな配慮で運営を支える姿が見られました。審判・用具担当は、運動会をスムーズに進行するために、各学年に競技のことを聞いて回り、進行をイメージして準備をしていました。当日は、競技をしている学年が主役だという気持ちで、コーンが倒れたらさっと直したり、用具をそろえたり、きびきびと動く姿が見られました。
放送担当は、自分たちの思いや各学年のイメージに合う曲を選択し、その曲をかけるタイミング、その際のアナウンスなどを考え、実現させました。パンフレット担当は、他の役割と兼務している人も多い中、こちらもやはり情報を集め、手作りのパンフレットが出来上がりました。
6年生みんなの働きで、「感染下でも手作りの運動会」をプロデュース(企画)・運営させることができました。終わった後、子どもたちから「いい経験になった。」「楽しかった。」「充実していた。」という声が聞かれたので、今後につながる成長の材料を得てくれたと考えています。